スローシャッター ~写真の隙間の物語~
何気ない一枚の写真。ですが、その写真が撮影されるまでには、撮影者しか知らないたくさんの出会いや別れ、トラブルや大自然からの洗礼、そして思いもよらない偶然が積み重なります。写真を見ているだけでは決して知りうる事のできない舞台裏こそ、写真を撮るために旅に出る-面白さなのではないか?と私はいつも考えています。ここでは、そうした普段語られる事のないストーリーを『スローシャッター』と称して、少しではありますが不定期でご紹介していきます。
File1 ミャンマー アラマプラ 『世界で最も長い橋に夕日が沈む、その時を目指して』
File2 ベトナム カントー ハウザン後江 『アジア最大の水上マーケットを探す旅』
File3 中国・雲南省 元陽 『ハニ族の雲の上の梯子』
File No2 水上マーケット
ベトナム カントー ハウザン後江
『アジア最大の水上マーケットを探す旅』
2008年12月5日公開
アジアには水上マーケットは至る所に存在する。インドシナ半島にはメコンやエーヤワディーといった数千キロもの大河が流れ、豊かな水の恵みがアジア独特の水上マーケットという生活習慣を支えてきた。有名な所ではバンコクの「ダムヌアン・ サドアク」が挙げられるが、残念ながら既に観光客向けの市場になっており、水上マーケット本来の「地元の人のための市場」には程遠い印象がある。ミャンマーのインレー湖にも水の民インダー族のマーケットなども有名だが、アジア最大の水上マーケットはなんといってもメコンデルタに点在するマーケット群ではなかろうか。その水上マーケットの噂を聞きつけて居てもたってもいられなくなり、2002年秋、私はカメラを手にベトナムのメコンデルタにアジア最大の水上マーケットを探す旅にでかけた。

↑水上マーケットに手こぎ舟で買い物に出かける人々
ベトナムの首都ホーチミンで1泊した私は、ホーチミン郊外にあるミェンタイバスターミナルでメコンデルタ最大の都市であるカントーに向かうバスに乗った。ここから5時間ほどでカントーに到着する。カントーで情報収集すると、この周辺には「フーンヒエップ」「カイラン」「ファンディエン」という3つの巨大な水上マーケットが存在するという。中でも「フーンヒエップ」は7つの運河が交わり、各地から集まる人々でその迫力たるや想像を絶するらしい。ただ、現地の客引きの男が口々に「あそこはもう死んだ。」という。どういう事だ、水上マーケットが死ぬなんて?にわかに信じがたかった私はそれを確かめるべく、カントーからさらにローカルバスに乗って、夜のフーンヒエップの町に降り立った。
フーンヒエップは普段観光客も寄り付かない小さな田舎町だった。旅行者向けのゲストハウスなどもなく、私は知り合った親切なベトナム人のお宅に泊めてもらい、翌朝日の出頃からフーンヒエップの水上マーケットらしき場所を目指した。7つの運河が交わる場所。そこがベトナム最大、いやアジア最大と言われたフーンヒエップの水上マーケットのポイントであった。運河の周りにはたくさんの小船が係留され、確かにその面影は感じさせるが行きかう船はすべて運河の対岸を行き来する人のためのはしけ船であった。ここで確かに水上マーケットが行われていたのは間違いない。しかし、ここにはその面影の地を通過する人々の姿しかなかった。昨日、客引きの男が言った「あそこはもう死んだ。」という言葉が頭をよぎった。数日間、ここに留まったが私がいる間、フーンヒエップで水上マーケットが行われることは一度もなかった。

↑ファンディエンの水上マーケット。数百隻もの小船が密集し、動くのも一苦労
フーンヒエップは3年前からのメコン川の原因不明の水位低下が原因で運河の水深が浅くなり、中型船の航行が出来なくなってしまい、行われる事が少なくなった-と聞いたのはカントーに戻ってきて数日たった頃だった。「死ぬ」というのはそういう意味だったのか・・・。私は気を取り直し、次なる目的地である「カイラン」と「ファンディエン」の水上マーケットを目指すことにした。カントーからハウザン後江を上流に17キロ進むとファンディエンの水上マーケットが現れる。私は朝6時にカントーからバイタクをつかまえ、ファンディエンに向かった。カントーからボートに乗って行くのがメジャーなのだが、実はバイタクで行った方が安いし早く着けるのだ。運河沿いの道路を走ること30分ほどでファンディエンに着くと、運河一面に巨大な船とそれに群がる小船たちが姿を現した。この数日間、水上マーケットを求めて歩き回ったのにシャッターを1度も切る事がなかったカメラを手に持つと、私は運河の桟橋へと急いだ。

↑買い付けに来ている業者の船の一団。竿に野菜を吊るしているのは「野菜を扱っている」との意味だそうだ。
桟橋で小さなボートをチャーターして、さっそくマーケットの行われている運河のど真ん中を分け入っていく。船頭のたくみな艪さばきでぶつかりそうな密集地帯をするすると抜けていく。マーケットは1~2キロに渡って続き、手前は野菜などを買い付けに来た行商人が集まる数十の大型船団のエリアと日常品などを買いに来た地元の人たちの小船、そしてそこに集まる人々を相手に軽食を出す船や飲み物屋、はたまた宝くじを売る船が横行するエリアに分かれていた。それにしてもこれだけ広大に水上マーケットが広がっているとは想像だにしていなかった。まさしくアジア最大、いや世界最大の水上マーケットには間違いなかった。ファンディエンのマーケットが盛況なのは朝7時前~9時前まで。朝の買い物が終わると人々は運河をつたって、自分の町や村へ帰っていくのだった。
一方、カイランの水上マーケットはカントーからボートで30分のところにある、一番近いマーケットとなる。ちょうどハウザン後江のファンディエンの手前に位置し、わりと手軽に行くことが出来る。ここはファンディエンほどの迫力はないものの、中型船と地元の人々との買い付けが頻繁に行われており、色々と面白い光景を見ることが出来る。舟に揺られながら、同じ視点で市場をウロウロとするとベトナム南部の人々の明るい人柄か気さくに声をかけてくる。もちろんベトナム語で話しかけてくるので何を言っているのかさっぱりわからない。でも、もぎたての果物をもらったり、隣にやってきたフォー屋の小船からフォーを買って食べながら、ベトナムの人々の生きる力の強さを感じるのだった。ベトナム南部の水上マーケットを訪ねる数日間の旅はあっという間に終わってしまったが、こうしてパソコンに向かっている今でも、日の登る前からあの運河では人々の熱い買い物競争が続いているのに違いない。彼らに生きる力がどれだけ素晴らしいものかを見せてもらう旅もまたいいかもしれない。

↑カイランの水上マーケット。価格交渉のやり取りが非常に面白い
<アクセス>ファンディエンの水上マーケットへは、メコンデルタの中心都市カントーからのアクセスが便利だ。ホーチミンのミェンタイバスターミナルからカントーまではローカルバスで約4時間。水上マーケットは早朝なので、カントーで一泊する必要がある。カントーからファンディエンはバイタクかタクシーでファンディエンまで行き、そこでボートなどをチャーターして見学するのが効率的。舟でカントーから行くと2~3時間かかってしまい、マーケットに間に合わない。カイランはカントーからも近いので、舟に乗りながらのマーケット散策も楽しめるだろう。*データは2002年当時のものですので、訪れる際には最新の情報収集をお願いします。
↑フーンヒエップの町に集まる運河。この場所で行われていたらものすごい事になっていただろう、きっと・・・
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